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いえ、厳密にいえば“まだ”死んではいません。臨死体験中です。彼女の意志が強固であればどうにかなるのでしょうが……。
まぁ、ナモには関係ありません、悪意のない事故なので。
ナモは思わずウインクしました。いいことを思いつくと無意識に出てしまう癖のようなものです。
「この体を借りましょう。そうしましょう。」
死んだ少女の頭の髪を引っ張って上半身を起こし、その唇にめいっぱいの空気を含んでナモは彼女の頭を膨らませました。
陥没していた後頭部がベコっという音とともに、ナモが衝突する前の形に戻りました。
「私お上手。さぁ、後は背中に回って張り付いて~♪なにかしらこれ、邪魔だから取っちゃいましょう。」
ナモは胸当てを必要とするほど、大人ではないのです。
服をへだたずに少女の背中に張り付いたナモが念を込めると、そのまま張り付いた体へと溶け込んでいきました。
数秒後、むくりと立ち上がった少女は大きく目を見開いて、自身の体をこれでもか、というほどに凝視しました。
そしてその唇が三日月のように鋭く歪むと、今度は体を貪るようにそこらじゅうを揉みしだきました。
その摩擦で着ていた衣服が煙を上げたところで、ナモはやっと満足したようでした。
「おぉ~リトル・テラ人のメスですのね~」
両手を突き上げて万歳をしたところで、衣服からポロリと落ちるものがありました。
それは手のひらサイズの小さな小袋で中にはクッキーとメモが入っていました。
「“昼から逃げて、愛する彼に会いに行く。ハッピーハロウィン”……はて、なんのことでしょう」
ナモが疑問符を出していると、周りから盛大な拍手や口笛がやんややんやと鳴り響きました。
「嬢ちゃんすげぇな!」「今のなぁにママぁ~、頭へこんでいたよ!」「発情ガールだ!ふっふ~」「二人が一人になった!今年最後のイタズラは芸が凝っているね!」「つかあれ、ブラジャー……」「いやぁ心臓がとまるかとおもったわい。こりゃお菓子をあげるべきだったかのぅ」
ナモには見当すらつきませんでしたが、注目されて嫌な気はしません。
とにもかくにも、声援には応えるべきだと考えて、腰に手をあて、脚を肩ほどに開き、渾身の横ピースを披露します。再び沸く観衆を、ナモはかつて「地球」でもらったダンシングフラワーみたいだとしみじみ思いました。
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