月夜の幻と現実

8/9
前へ
/9ページ
次へ
しかし、自分が語り掛けるより早く声を発した人物が居る。 「姫、残念ながら正体がばれた以上は、こちらに居続ける事は出来ませんよ」 天文部顧問の先生だった。 ちっこいのに、毅然とした態度の前には、島崎も自分も呆気に取られ言葉を忘れている。 「うん。和泉先輩も島崎君もバイバイだね」 十六夜の手を先生が取り、月を見上げる。 光の筋が二人の上に降り注いだ。 それは有り得なくて、そして幻想的な光景で、二人の姿は光の中でより美しく輝いている。 やがて眩しさに目も開けられない状態になったかと思ったら、次の瞬間に二人の姿は光と共に忽然と消え失せていた。 「い、和泉先輩」 反対側に立っている島崎が震える声で自分を呼ぶが、それ以上は何と言って良いのか分からないらしく、ただ口をパクパクと開閉している。 自分も何を言って良いのか分からない。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加