尋&木佐

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『ってかさ、鬼羅の話は置いといて。お前、俺に聞きたい事があるんじゃねぇの?』 そう言って多田は珈琲を飲み干した。 「…あぁ。まぁな。やっぱ、あれだよ。今だに納得いかねぇって言うかさ。」 昔、多田と話をしてから今現在までずっと納得出来ねぇ事があった。 『そうだよな。まぁ、納得いかねぇよな。俺もさ、あの時尋は絶対に納得しねぇよなって思いながら話したし。』 「…お前さ。知ってんだろ?」 多田をチラッと見てから俺も珈琲を飲み干した。 お互い、またタバコに手を伸ばし口にする。 タバコに火をつけ暫く沈黙が続いた。 その沈黙を破ったのは多田で。 『…知ってるぞ。聞きてぇ?』 タバコを揉み消し俺をじっと見た多田に俺もタバコを揉み消して頷いた。 『…熱海だ。』 …熱海? 多田の言葉に眉間にシワを寄せた。 『あいつさ。熱海におふくろさん居たんだよ。で、おふくろさんが病気になって入院したって聞いて、あっちに行くってさ。でもさ。なんつっうか、タイミングがな…。俺の事で色々あった直ぐ後だったしさ。俺のせいじゃねぇかなって思って聞いても、違ぇよって。』 「…じゃあ、木佐は今も熱海に居るって事か?」 『あぁ。おふくろさん、結局亡くなったみてぇでさ。おふくろさんの店を改装して今はシルバーアクセの店してるって。』 俯き加減で多田が言った。 「…そう…か。お前、最初から知ってたんだろ?」 昔、俺が木佐の居場所を聞いた時は知らねぇって言った多田。 親友だった多田は絶対に知ってると思って、何度も何度も聞いたけど、木佐は何も言わずに居なくなったとしか多田は言わなかった。 『…あぁ。知ってたけど、木佐が絶対に言うなって。尋に聞かれても絶対に言うんじゃねぇって。』 申し訳無さそうに頭を掻きながらチラッと俺を見る多田。 それを聞いて何だか悔しかった。 「…俺はさ。あいつの事、仲間だと思ってた。何事にも一生懸命でさ。抗争とか沢山したけど、でも途中から絶対にこいつ鬼羅に欲しいって思った。鬼羅に来てからも雷神のヤツら説得して纏めてくれたしさ。だから俺は…」 木佐が急に姿を消して俺はすげぇ悔しくて、意地でも見つけてやるって街中走り回った。 多田が知らねぇって言っても、それでもあいつが黙って居なくなるなんて思っても居なくて。 木佐は亜紀や浬とはまた違う俺の大切な奴で。 俯いて言った俺を多田がじっと見つめていた。
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