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「学食なら、晩ごはん時に学食の前を通りかかると『おばちゃんタグお代わり』って声が聞こえてくるってのがあるんだぜ」
「タグってなんだい?」
「一説によるとそれを言ってる少年の故郷の料理に使われる虫の名前とかいう話もあるんだけど、真相は謎なんだぜ。
でも、もしも『タグって何?』なんて訊き返したら最後、ここにあるだろっ!って舌を引き抜かれるらしいんだぜ」
「なんだか雑な怪談だなあ」
「まあ48個もあれば、どれも雑になるんだよ」
僕とイサオはそう言って笑ったが、廊下の突き当たりに見える学食の方は二人とあまり見ないようにしている。
「臼田先生は獅子舞とゴブリンのハーフってのもあったんだぜ」
「それ、ただの悪口だよね」
「他にこの二階のなら、美術準備室のデッサン用の石膏像の鼻毛の話だぜ」
「石膏像に鼻毛の落書きでもされてるのか?」
「そんなの不思議じゃないんだぜ。
ハロウィンの夜の午前1時に並んでる石膏像の一つの鼻から鼻毛が出るんだぜ。
実は石膏像にはダイナマイトが埋め込まれてて、その鼻毛が起爆スイッチになってるんだぜ。
もしそれを押したら、美術準備室ごと、押した人もこっぱみじんになるんだぜ」
僕は思わず腕時計を確認した。
時刻は23時15分。
この話はゴウあたりが面白がって押しに行きかねない。
けどまあ、1時までにはまだ間があるから大丈夫だろう。
「それにしてもゴウ詳しいな」
ハジメが 訊く。
彼はすでに三階への階段へと足をかけている。
「ああ、詳しいのはオレじゃないんだぜ」
「ん? じゃあ誰が詳しいん……」
ハジメが聞き返しかけたところでそれは聞こえてきた。
『おばちゃん、タグおかわりー』
学食の方から、はっきりと。
怪談と呼ぶには快活すぎる調子で。
だけど、その違和感がまた皆の恐怖を煽り立てる。
「た、タグって……」
そう言いかけたイサオの口を僕は慌てて塞ぐ。
一瞬モゴっと言ったけど、口を塞がれたことでびっくりして、イサオは正気に戻ったようだ。
「聞こえた……んだぜ」
「あ、ああ」
さすがのハジメも同意した。
「早く上がろう」
と、僕はイサオの手を引きながら皆をうながすと一段飛ばしで階段をあがった。
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