二夜目の魔法はペナン島で

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「やべえ、誰かきた」 その音の硬さからすると革靴のようだ。 さっきハジメが言っていた宿直の先生だろうか。 「声が聞こえたのかな」 ひそひそ声でイサオが言う。 「見回りかもしれねえし、分かんねえ」 それがもし見回りであるにしても、足音はこちらに近付いてきて、いままさに階段を上がり始めていた。 「とりあえず動こう」 僕たちは懸命に足音を殺しながら、早足で廊下を進む。 音楽室の方に行くと廊下が行き止まってしまうため、図書室の方へと進んだ。 「図書室に隠れよう」 僕は図書室の前で止まる。 「今入ったらタイミング的に見つかっちまう。 それに完全に逃げ場がなくなるぞ」 言いながらハジメは図書室の扉の前で右に折れた。 イサオとゴウもそれに続く。 「ちょっと待ってくれよ」 言いながら仕方なしに僕も彼らの後を追う。 こうなるんだったら最初から説明しておけば良かった。 とりあえずぐるっと回って宿直の先生をやり過ごしたら、みんなに最初からきちんと説明しよう。 図書館の右手には2階のカフェスペースからの吹き抜けに面した多目的スペースが広がる。 急に視界が開けたように感じる。 吹き抜け空間はちょうど1階の昇降口の上に位置していて、中庭に臨む壁は全面がガラス張りだから、そこに立てばまっすぐ中庭を抜いて正門までが見渡せるのだ。 だけどもちろん今はゆっくり外を見ている余裕なんてない。 先頭を行くハジメはためらわず多目的スペースへと進む。 進路指導室のある、一番奥の廊下まで行って、そこの階段をおりるつもりなのだろう。 その階段を使えば、僕たちが入ってきた来賓用玄関のすぐ近くまで降りることができる。 多目的スペースには掲示物用のパネルがたくさん並べられていた。 そこに二年の、つまり僕たちが美術の時間に制作した絵が展示されていた。 テーマは自画像。 そんな場合でもないのに、ついつい展示されてる絵の中に、網井 剛、安楽城 功、門屋 一、の名前を見つけてしまう。 ハジメは実物以上にイケメンに描かれている。 美術部とアニ研に掛け持ちで入っているイサオはやたらと上手い。 ゴウの絵はピカソだ。 こんな時だというのに思わず笑ってしまう。 友だちというのはやっぱり特別で、そんな友だちだからこそ今夜の僕には必要だったのだ。 image=496487781.jpg
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