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「なんだ」
悲鳴のように裏返った声でハジメが叫んだ。
「あれは、深夜の進路指導室に表れるという“懇切丁寧な指導者”だぜっ」
やはりゴウはちゃんと48不思議を憶えてるのかも知れない。
現れた指導者の、スポーツ刈りの頭部にはみみずほどもありそうな血管がめこめこ走っている。
血走った目と、歯茎まで剥き出した口。
上下揃いのジャージを着ているが、逞し過ぎる肉体の圧迫によりぱつんぱつんだ。
手には無数の釘が打ち付けられた木製バットを握り締めている。
「しぃどぉぉお、しぃどぉぉお」
喰いしばった歯の隙間から唸り声のような呟きを漏らしている。
あれは確か「指導、指導」と繰り返しているんだ。
「し、指導者っていうか、ただの化け物だよね」
「懇切丁寧すぎて、指導に力が入りすぎてしまうんだぜ」
背中を向けることにも勇気がいるが、のしのしと迫ってくる怪物を前に皆は一斉に逃げ出した。
「きょぉおいくてきぃいいぃどおおおお!」
僕たちが多目的スペースに戻ったところで叫び声がこだました。
思わず背後を振り返ると、懇切丁寧な指導者が教員用トイレのドアを釘バットの一撃で破壊している。
「おい、図書室に逃げるぞ」
ハジメが言った。
一年生の教室廊下に曲がる方が逃走経路としては正しいはずだ。
図書室だとさっきハジメ自身が言ったように逃げ場もなくなってしまう。
「でも……」
「説明はまだ途中だけど、お前は図書室に大事な用があるんだろ?」
「ハジメ……」
「内側から机積んで扉閉めるぞ」
そこでイサオが声をあげる。
「あれって臼田先生じゃない?」
先ほど階段を上がって来ていた足音もこの場所に到着したのだ。
イサオの見ている先を見るとその人影は確かに担任の臼田先生のようだ。
「助かった。
先生、大変なんです」
イサオが先生に向かって手を振る。
だけど僕には悪い予感しかなかった。
「ぐるるるるる」
人には到底出せないような唸り声。
獣、というよりも怪物じみたそれを発したのが、他ならぬ臼田先生であることに気付いたのは僕が一番早かった。
「みんな、危ない、近付くなっ」
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