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第1章
【トリック・オア・スイートキス ~放課後はとろけるような甘い勝負を~】
「へー。黒レースか。井村、おまえ意外にエロいの着てんだなー」
放課後の教室。
誰もいないはずのその場所で衣裳を脱いでいたあたしは、いきなり話し掛けられてひっくり返りそうになった。
「ひ……氷川っ!?」
振り返れば、教室の後ろの壁に背を預けるようにして立っていたのは同じクラスの氷川瞳也(ヒカワトウヤ)。
入学初日から制服をゆるっと着崩して、頭もハニーブラウンに染めちゃってて、芸能人みたいに女子に囲まれてた男だ。
男のくせにやたらとまつ毛が長くて間近で見るとそのきれいな二重の目にうっかり惚れ惚れしちゃいそうになるし、スタイル抜群で集合写真じゃ男子たちは自分がすごい短足に見えるからって、わりとマジにこいつの隣に並ぶのを嫌がるくらい、モデルばりにめちゃくちゃ脚が長い。
ただ町中歩いてるだけで逆ナンもスカウトもいっぱいされるって噂。イケメンってきっと氷川みたいな奴のためにある言葉なんだろう。あたしも外見がカッコイイことだけは素直に認めてやる。
……けど氷川は学校でいちばん女慣れしてて、派手め男子の中でも特にチャラく見えるやつでもある。
あいにくあたしの好みのタイプは、「俺について来い」的な古き良き硬派な日本男児。華やかな顔とチャラい性格に興味のないあたしにとっては、先生のいうこともろくに聞かないクセに成績だけはいいこいつは正直面倒な相手で、出来ることならあまり関わりたくなかった。
なのにその男は、あたしを見てにやにや笑い出す。
「サービスいいな、井村」
「え?」
「モロ見えだし。おまえいつも制服きっちり着てるから保守派と思いきや、下着だけはめっちゃ攻めてるんだな」
氷川が指さしたのはあたしの胸元。もっと正確にいうならば、むき出しのブラのあたり。
あたしは「ぎゃあぁ」と女子にしては濁りまくった悲鳴をあげると今脱ぎかけていた派手めなワンピースを慌てて胸元まで引き上げた。
「いやー、マジいいモン拝ませてもらったわ」
「見るな、死ねぇッ!」
「しかも井村って着痩せするタイプだったんだな。隠れ巨乳ってヤツ?」
「だからッ見るなっていうのッ!!記憶から消去して!!っていうかあんたなんでこんなところにいんのよっ……ハロウィンパーティはどうしたのっ!?」
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