第1章

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子作りと義務、という言葉が彼の心に引っかかった。 自分は尾上家の直系の最後のひとりだ。親は亡く、きょうだいはいない。 親族もごくごくわずか、元々子供ができにくい家系だ。父は女達と散々遊んだというがその誰にもうっかり子供ができたという話はない。あったとしても名乗り出ないのだから、まだ見ぬ兄弟姉妹は存在しない。 父は自分を大層可愛がってくれた。 何故なのだろうと思っていた。 自分も、自分の子を持てば父の心境が理解できるようになるのだろうか……。 仕事で大成するのと同じくらい重いつとめと親孝行があるのを忘れていた。 学生たちは片っ端から見合いに駆り出されていくのに慎の元には全く話が来ない。ある日、軽口のつもりで「自分はいいんですか」と訊いた。 「尾上には期待しとらん!」 柊山は即答した。 「今のままでは、お前は生活に喰われて墜ちるだけだ。それだけ健康ならもう大病の触りはあるまい、しかし、貴様に回す嫁の話はない!」 慎の元にだけは釣書が届くことはとうとうなかった。 同じく見合いを免除されていた男がいた。武幸宏だ。彼は柊山の覚えめでたい。その上、柊山とは旧知の間柄だという。彼がが見合いをした形跡はない。原因ははっきりしている。 野原幸子の存在にあった。
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