第1章

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移ってからの慎は目の前にあるなら何でも、手当たり次第に片付け、成果をあげた。学業だけなら何の瑕疵もなく栄達が望めた。品行方正であれば尚よかった。が、戦後に慎に取りついた暗い影は彼を支配した。 彼の素行の悪さは、成果の良さを帳消しまではいかなかったが、かなりの部分を削いだ。 特に、女性関係の問題行動は褒められたものではなかった。影で漁色家と叩かれても仕方ない程度のだらしなさだった。不誠実の限りを尽くし、女を抱いては捨てた。 少しばかり顔立ちと男ぶりが良い彼が一言二言女が悦びそうなことを囁けば、相手はあっさり落ちた。 自分も大概ひどい男だが、女も同類ではないか。 相手が感じていようと望んでいようとかまわなかった。 これでは強姦と何ら変わりはない思いやりのなさで女を突いた。 泣く女はいても、抵抗する者はいなかった。 嫌だと言いつつ、自分から足を開き、腰を突き出す。 手荒く乳を吸い、噛みつき、おざなりに陰部を触ってやったくらいで充分濡らす。 女なんて、皆、同じだ。 飢えを満たしたくて好き勝手をし尽くして残ったものは空しさだけだった。 柊山から何度たしなめられても自分を痛め付けるような不良生活は続いた。 「目に余る」と、柊山より強くお小言をもらい、自粛するよう申し渡されても反省はできなかった。 「子を作って育てろ。戦後、生き残った男子のつとめだ。末を拡げて義務を果たせ。子を持てない男に、学生は指導できない」 柊山は教え子には常々う言っていた。 せっせと見合いを勧め、学生をつかまえては釣書を渡した。
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