第1章 地獄の仕事

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「すみません」 蚊の鳴くような声で返事をした。 「で、どこだ?そこの家は?早く案内しろ。おばあちゃんか?」 「はい、そうです。小さいのなら買ってくれそうでした」 いかにも、見込みがあるようなフリをした。 ごめん、おばあちゃん。心が痛んだ。小さいやつはないんだよ。 このあと、チーフはいきなり20キロもある樽味噌を玄関に置く。 当然、びっくりしたおばあちゃんはこんなにいらないと言う。さっきの人が小さいのがあるから、小さいのなら付き合ってあげようとしたと言うだろう。まさか今時、樽味噌を持ってくるとは誰も想像しない。普通の人ならスーパーで売っているパック味噌を想像するだろう。価格もスーパーで普通買う味噌は1キロ200円ぐらい、無添加などの高級味噌でも1キロ500円前後だ。 でもうちには一番小さいやつでも5キロ入りでで価格も5000円以上する樽味噌しかない。安いもので1キロあたり1000円、最上級は1キロあたり2500円はする。 ことわりきれなくなったおばあちゃんは年金暮らしの細々した生活費から高い味噌を半ば強制的に買わされる。
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