Hands.

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◇◆◇◆◇ 「好きだ。俺と付き合ってくれないか?」 「え……あた、し?」  ある日の昼下がり。  真摯な眼で見つめてくる青年に、赤茶の髪につり目な少女は戸惑った。  告白の類いは昔から多く、その扱いには慣れていたし、躱す術もよく判っていた。  ……けれど。  告白してくる人間がまだ居たのか……そういう驚きに、思わず少女――リサは感嘆の息を漏らした。  リサ・レンフロ――19歳。  このレイガスという国で最も優秀な魔法使いの軍隊でナンバー2の実力を持つ少女。    自慢ではないが、彼女は幼なじみのサラよりも昔からモテた。  ただ、いつもおどおどと怯えてばかりで自身の背中に隠れたがるサラより話しかけやすいからなのだと、理由ははっきり判ってるのだけれど。  あわよくばサラとも仲良くなれる、といった男達のあまりに判りやす過ぎる下心にも慣れてしまっていた。  ここ最近は、ある理由でそういう機会もすっかり減ってしまっていたが。 「……困らせてごめん。返事はいつでもいいから」 「へ、あ、ごめんっ」  久しぶりの感覚で、つい思いにふけってしまった。  俯いていた顔を上げると、男は気まずそうに肩を竦め、眉を寄せていた。  ……彼の瞳に下心は見えない。だったら、真面目に、自分の心からの気持ちを返さなければ。  でないと、それどころではなくなってしまう。 「あの、」 「リサー、何やってんの~?」 「!!」  ―――お、遅かった……!  がくりと肩を落としたリサは青ざめた顔でぶるぶるとかぶりを振った。   .
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