3人が本棚に入れています
本棚に追加
回り道要請
オフィスビルに出社し、いつものようにエレベーターに乗り込もうとしたら、点検中ということで、三基総てが使用停止になっていた。
四階まで階段使用か。疲れるし面倒この上ないが、エレベーターが使えない以上、そうする以外に移動の手段がない。
奥まった所にある階段をとぼとぼと上って行くと、三階に着いたところで立ち入り禁止の立て札に出くわした。
見れば、こちらも『点検中』らしく、建物の真反対にあるもう一つの階段を利用してくれと書いてある。
遅刻をしそうな時刻じゃないが、とことんまで面倒くさい。
だいたい、エレベーターならともかく、階段の点検ていうのは何だ? 多少の破損箇所があったとしても、横をすり抜けて通るくらいできるだろうが。
反対側まで行く気にならない。どうせ後一階分。人もいなさそうだし、ちょっと横をすり抜けさせてもらうとしよう。
* * *
「エレベーター、使えないのかよ。仕方がねぇなぁ」
「階段も途中で封鎖? 向こうまで行くのか…面倒だけどしょうがねぇか」
「おはよーございまーす。はーもう、朝からへとへとっスよ。出勤時にエレベーター点検とか、勘弁してほしいっスよね」
* * *
「おい。〇×は今日も来てないのか?」
「ええ。携帯には何どもかけてるんですけど、まったく繋がらなくて」
「今日でもう五日目だぞ? ご両親の方には?」
「連絡は入れてあります」
「そうか」
「○×さん、今日も連絡取れないんですか? じゃあマジで、五日前の出勤時に俺が見た後ろ姿が最後?」
「お前、見かけてたのか。どんな様子だった?」
「どんなって、普通だと思いましたけど。といっても、点検で止まってたエレベーターを諦めて、奥の階段に向かってく後ろ姿を、エントランスに入ってきたばかりの俺が、チラっと見ただけの『普通』なんで、表情とかは判んないスけど」
「点検? エレベーターの? そんなのしてないぞ?」
「え? でも、五日前、確かに…」
「……〇×さん、どこ行っちゃったんでしょうね…」
回り道要請…完
最初のコメントを投稿しよう!