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女の人に化けたお母さんが、申し訳なさそうに頭を下げるので、
「やめてよ、恥ずかしいから」
と僕は泣きそうな声で言いました。でも、すこし嬉しかったのです。
「お母さんはお前が心配で、それで見に来たんだよ」
「店主様だって困っているじゃないか」
「シロ君のお母様でしたか。私が店主の内田九一と申します」
渋い声色と役者のような流し目で、店主様が自己紹介をしました。
「また九一さんは美人だと、すぐ鼻の下を伸ばすから。シロちゃんのお母さんなのに」
アオネさんが嘆きました。
「うるせえ。人間だろうが妖怪だろうが、俺は美人を差別しねえんだよ」
「それを、分別がないと言うんだよ世間では」
「とにかく、もう帰ってよ」
僕は赤面しながら懇願しました。
「また、是非いらしてください。なんなら、静かな料亭で二人だけで会いましょう」
必殺の流し目で口説く店主様を無視して、僕はお母さんを外に見送りました。
すると、また別の女の人が店を訪れたようです。でも、その女の人が握るモノを見て、僕の顔は引きつりました。
「て、店主様……」
「なんだいシロちゃん、泣きそうな顔をして?」
「おっと、またお客人か。それも美人ときたもんだ。今日は美人の多い日だな」
呑気に茶化す店主様とアオネさん。
「内田九一さんですね?」
静かに尋ねる女の人の手には、黒鉄色に鈍く光る拳銃が握られていました。
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