第一章「遺された心」二話「マトリの九一」

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「ちょっとブロンド侍、あの女をなんとかしてよ」  アオネさんが声をひそめても、 「私は女を斬りません」  レオンさんは取り澄ました顔で動こうとしません。 「裏のマトリを、お願いできますか?」 「たとえ裏のマトリがあったとしても、ご新造さんが払える金額ではありませんよ」 「いくらですか?」 「もしマトリを望むなら、締めて六千円の銭が必要だ」 「ろ、六千円……!?」女の人が絶句しました。  無理もありません。あの伊藤博文さんの月俸が五百円のご時世です。店主様の要求は、法外な値段だと言わざるを得ません。 「銭金に命を張れ、が俺の信条なんだよ」 「じゃあ、どうすればいいのですか?」 「困ったときに言う女の常套句だな。無理なら諦めな。それが嫌なら……」 「それが嫌なら、なんですか?」 「それは言わずもがな、大事なモノが足りないのさ」 「わたしで……足りますか?」  羞恥に震える声で、女の人が尋ねました。 「おっと、俺は身体を要求しているんじゃねえよ」 「……このような辱めを受けては、もう引き下がれません」  今にも撃鉄を起こしそうに焦れています。 「厄介なご新造だな」  店主様が物憂げな表情でため息をつきました。 「恨みの筋は、旦那さんかい?」 「……仇(かたき)を取ってくれますか?」
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