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「ちょっとブロンド侍、あの女をなんとかしてよ」
アオネさんが声をひそめても、
「私は女を斬りません」
レオンさんは取り澄ました顔で動こうとしません。
「裏のマトリを、お願いできますか?」
「たとえ裏のマトリがあったとしても、ご新造さんが払える金額ではありませんよ」
「いくらですか?」
「もしマトリを望むなら、締めて六千円の銭が必要だ」
「ろ、六千円……!?」女の人が絶句しました。
無理もありません。あの伊藤博文さんの月俸が五百円のご時世です。店主様の要求は、法外な値段だと言わざるを得ません。
「銭金に命を張れ、が俺の信条なんだよ」
「じゃあ、どうすればいいのですか?」
「困ったときに言う女の常套句だな。無理なら諦めな。それが嫌なら……」
「それが嫌なら、なんですか?」
「それは言わずもがな、大事なモノが足りないのさ」
「わたしで……足りますか?」
羞恥に震える声で、女の人が尋ねました。
「おっと、俺は身体を要求しているんじゃねえよ」
「……このような辱めを受けては、もう引き下がれません」
今にも撃鉄を起こしそうに焦れています。
「厄介なご新造だな」
店主様が物憂げな表情でため息をつきました。
「恨みの筋は、旦那さんかい?」
「……仇(かたき)を取ってくれますか?」
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