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「そんな眼の色をした女を、俺はたくさん見たよ……仇を討っても虚しいだけだぜ」
「それは、あなたには関係ありません」
「大アリのコンコンチキだ。恨みの筋を聞かないと、マトリの仕事はできないのさ」
「……世良 重徳(せら しげのり)という男を知っていますか?」
「店に来る客の秘密は喋れないよ」
店主様が肯定とも取れる言葉で答えました。
「わたしの良人(おっと)は、世良に殺されました」
「恨みつらみは世の常さ。それに、裏のマトリは特殊なんだよ」
「知っています……化生や妖怪絡みでないと、依頼を受けぬと聞きました」
「ほう……あやかしの覚えがあるのか?」
興をそそられたように店主様が訊くと、女の人は唇を噛みながらコクリとうなずきました。
「わたしの良人が……」
と、女の人が朱塗りの短刀に手をかけた途端──
「待ちなさい」
今まで黙然としていたレオンさんが、ズイッと歩を進めて女の人に近づいたのです。歩み寄りながら、すでに刀の鯉口を切っていました。
(女の人が斬られる──!?)
僕は咄嗟にそう思いました。
「動くな」
レオンさんが短く言うと、
〈ザッシュ──〉
と音を立てて戸口の板から、ニョキリと刀が生えました。女の人が背中をあずけていた所からです。
「ひぃッ」
悲鳴がもれました。
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