第一章「遺された心」二話「マトリの九一」

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「そんな眼の色をした女を、俺はたくさん見たよ……仇を討っても虚しいだけだぜ」 「それは、あなたには関係ありません」 「大アリのコンコンチキだ。恨みの筋を聞かないと、マトリの仕事はできないのさ」 「……世良 重徳(せら しげのり)という男を知っていますか?」 「店に来る客の秘密は喋れないよ」  店主様が肯定とも取れる言葉で答えました。 「わたしの良人(おっと)は、世良に殺されました」 「恨みつらみは世の常さ。それに、裏のマトリは特殊なんだよ」 「知っています……化生や妖怪絡みでないと、依頼を受けぬと聞きました」 「ほう……あやかしの覚えがあるのか?」  興をそそられたように店主様が訊くと、女の人は唇を噛みながらコクリとうなずきました。 「わたしの良人が……」  と、女の人が朱塗りの短刀に手をかけた途端── 「待ちなさい」  今まで黙然としていたレオンさんが、ズイッと歩を進めて女の人に近づいたのです。歩み寄りながら、すでに刀の鯉口を切っていました。 (女の人が斬られる──!?)  僕は咄嗟にそう思いました。 「動くな」  レオンさんが短く言うと、 〈ザッシュ──〉  と音を立てて戸口の板から、ニョキリと刀が生えました。女の人が背中をあずけていた所からです。 「ひぃッ」  悲鳴がもれました。
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