第一章「遺された心」二話「マトリの九一」

4/10
前へ
/230ページ
次へ
 女の人を狙った刀は、軌道をはずれて刺さっていません。戸板から生えた刀を、レオンさんが刀の鎬(しのぎ)で受け流したのです。 「何者ですか?」  危機一髪で女の人を護ったレオンさんが、戸口の向こうに問いかけました。 「……邪魔をするか」  レオンさんの問いに答えず、見えない相手が暗い声で一言返しました。 「女人を斬るのは、この私が許しません」 「……何奴だ?」 「レオン。大神流の大神レオンです」  レオンさんが名乗った途端、 〈ザッシュ──〉  再び戸板を破って、刀がレオンさんを串刺しにしたのです。 「レオンさん──!?」  僕は駆け寄ろうとすると、 「安心しな。レオンはあれくらいでくたばるヤツじゃねえよ」  と店主様が不敵な笑みで言いました。 「あなたも二刀流ですか」  レオンさんの確かな声がしたので見ると、いつの間にか抜いたもう一つの刀で、相手の刀を受けていました。ほっと安堵の息をつく僕。 「面白き奴よ。名と剣流は覚えたぞ」  低い含み笑いと共に、戸板から生えた二本の刀が消えました。凶行に彩られた銀光を残して。 「大丈夫ですかレオンさん?」  今度こそ僕は駆け寄ると、 「ご案じ召されるな。それにしても剣呑な敵でした」  二刀を鞘に収めてレオンさんが平然と答えました。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

290人が本棚に入れています
本棚に追加