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第一章「遺された心」三話「お龍と龍馬」
「坂本龍馬でございますか……!?」
魯文さんが唸りました。
「知っているのかい魯文先生?」
アオネさんが訊くと、
「明治三年の新聞に載っていましたから覚えておりますとも。海援隊を組織した御仁だとか。
それで興が湧いて調べてみますと、どうも維新の陰の功労者だと判った次第で。誠に知られぬ偉人英雄が世の中にはおりますな」
と魯文さんは説明しました。
「海援隊なら俺も聞いたことがある。長崎を出る前に、そのような会社が創られたとね」
店主様がお龍さんを見ながらうなずきました。
「その通りでございます。良人の龍馬は薩長同盟に尽力し、御一新を陰から支えました。
にもかかわらず、慶応三年に京都で刺客の手によって暗殺されたのです」
お龍さんが目を伏せました。その今にも折れそうな姿に、言葉にできない哀しみを感じたのは僕だけでしょうか。
「その刺客が元京都見廻組の世良なのかい?」
「……その刺客の一人です」
「複数の凶行だったのか。だが、その一人が世良だとなぜ判った?」
「鞘(さや)がありました」
「刀の鞘かい?」
「暗殺があった近江屋の現場に、刀の鞘が落ちていました」
「それが暗殺の一員、世良の鞘だとなぜ判ったのだ?」
「東京で世話になった西郷吉之助様がお調べになったからです」
「それを信じたのかい?」
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