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「わたしが直に……確かめました」
「どうやって?」
「柳橋の芸者に化けて、立見から聞きました……」
お龍さんはそこまで言うと、耐えられないかのようにうな垂れたのです。
「……妖怪絡みだと、なぜ言える?」
「良人が暗殺の前に話していました……人外の者に狙われていると」
「それで仇を取ってくれと、俺のところに来たのかい?」
店主様が重い声で尋ねると、お龍さんは強い眼でうなずきました。
「ちょいとお龍さん。仇を取れとおっしゃいますが、今年に御触れがでた仇討ち禁止令を知らないのかい?」
アオネさんが尖った声で訊きました。
「……仇討ちが禁止されたのは知っています。殺人者を罰するのは、政府の大権なり、と。
でも、大事な良人を殺された妻の無念は、いったい誰が晴らしてくれるのですか!?
維新に尽力した龍馬を殺めた者が、のうのうと生きて人を裁く役人になっているのを、いったい誰が裁いてくれるのですか!?」
「だから、ウチらに泣きつくのかい?」
「神や仏の裁きなんて、この世にありゃあしない! もう頼れるのは、マトリの九一さんしかいないのです」
叫ぶように言うと、お龍さんが泣き崩れました。
「お龍さん。マトリがなにか知っているのか?」
店主様が硬い声で尋ねました。
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