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「今日もコロッケ♪、明日もコロッケ♪、おいしいコロッケはいらんかね~♪」
ガラガラと音をたてて、屋台を引く女の人の声がしました。
「九一さん! 銭もうけばかりしてないで、コロッケ買っとくれよ」
挨拶もなしに、いきなり女の人が入ってきました。眼鏡をかけた女の人ですが、胸がペッタンコなのでかわいそうです。
「俺は油っこいのが苦手なんだ」
「だからそんな痩せた身体なんだよ。あたしのコロッケを食えば元気百倍だよ」
「イモを揚げた西洋料理だろ? 揚げ出し豆腐は好きだが、揚げたイモは嫌いなんだよ」
「コロッケは仏国のクロケットを、あたしが日本風にアレンジしたモノだよ。九一さんは好き嫌いが多すぎるんだよマッタク」
「おととい来やがれ」
「ところで……なんだいその、イヌとネコの中間みたいな生き物は?」
眼を爛々とさせて、眼鏡のお姉さんが僕に気づきました。
「お前は狐も知らないのか?」
「ハタキとゾウキンを持った狐なんて、あたしははじめて見たよ」
「野狐のシロといって、妖狐の子供だ」
「ちょっと九一さん、あんたまさか狐鍋にして食うつもりじゃないだろうね!?」
「俺はそんなゲテモノ趣味じゃねえ」
「そいつは良かった。こんなにカワイイから、食べられやしないかと心配したよ」
オヨヨと泣きマネをして、お姉さんが僕を見ました。
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