第一章「遺された心」一話「はじめての九一堂」

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「今日もコロッケ♪、明日もコロッケ♪、おいしいコロッケはいらんかね~♪」  ガラガラと音をたてて、屋台を引く女の人の声がしました。 「九一さん! 銭もうけばかりしてないで、コロッケ買っとくれよ」  挨拶もなしに、いきなり女の人が入ってきました。眼鏡をかけた女の人ですが、胸がペッタンコなのでかわいそうです。 「俺は油っこいのが苦手なんだ」 「だからそんな痩せた身体なんだよ。あたしのコロッケを食えば元気百倍だよ」 「イモを揚げた西洋料理だろ? 揚げ出し豆腐は好きだが、揚げたイモは嫌いなんだよ」 「コロッケは仏国のクロケットを、あたしが日本風にアレンジしたモノだよ。九一さんは好き嫌いが多すぎるんだよマッタク」 「おととい来やがれ」 「ところで……なんだいその、イヌとネコの中間みたいな生き物は?」  眼を爛々とさせて、眼鏡のお姉さんが僕に気づきました。 「お前は狐も知らないのか?」 「ハタキとゾウキンを持った狐なんて、あたしははじめて見たよ」 「野狐のシロといって、妖狐の子供だ」 「ちょっと九一さん、あんたまさか狐鍋にして食うつもりじゃないだろうね!?」 「俺はそんなゲテモノ趣味じゃねえ」 「そいつは良かった。こんなにカワイイから、食べられやしないかと心配したよ」  オヨヨと泣きマネをして、お姉さんが僕を見ました。
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