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「や、野狐のシロです。どうぞよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げながら、僕は吃驚(びっくり)していました。だって、普通の人間は妖怪が見えないはずだからです。
それとも、店主様と一緒でこのお姉さんも特別な人間か、あるいは人間界に紛れた妖怪なのでしょうか?
「オデコが白い毛だからシロかい。あたしはアオネだよ。普段は何でも屋だけど、最近はコロッケ屋台を引いてるのさ」
そう挨拶して、アオネさんが僕の眼前に顔を近づけました。マジマジと見ています。近いです、近すぎです。
「おい、お前こそ食いそうな勢いだぞ」
店主様の嫌みが聞こえないのか、アオネさんはウンウンとうなずくことしきりです。
「ちょっと九一さん。このシロちゃんはいくらだい?」
「……売り物じゃねえよ」
「するってぇと、九一さんの手伝いかい?」
「まだ見習いだがね」
「こんなヒトデナシのところで働くなんて、何とも不憫な話じゃないか。劣悪な労働環境でマイっていないかい?」
そう訊かれたので僕は、「店主様は良い人です」とアタリサワリのない返事をしました。
「見習いって、それは表の仕事だよね?」
「ああ。まだシロには、裏の仕事を教えていない。それに、まだ来て初日だ」
「初日からこんなにコキ使っているなんて、九一さんはまさしく鬼か蛇だよ」
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