第一章「遺された心」一話「はじめての九一堂」

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「や、野狐のシロです。どうぞよろしくお願いします」  ペコリと頭を下げながら、僕は吃驚(びっくり)していました。だって、普通の人間は妖怪が見えないはずだからです。  それとも、店主様と一緒でこのお姉さんも特別な人間か、あるいは人間界に紛れた妖怪なのでしょうか? 「オデコが白い毛だからシロかい。あたしはアオネだよ。普段は何でも屋だけど、最近はコロッケ屋台を引いてるのさ」  そう挨拶して、アオネさんが僕の眼前に顔を近づけました。マジマジと見ています。近いです、近すぎです。 「おい、お前こそ食いそうな勢いだぞ」  店主様の嫌みが聞こえないのか、アオネさんはウンウンとうなずくことしきりです。 「ちょっと九一さん。このシロちゃんはいくらだい?」 「……売り物じゃねえよ」 「するってぇと、九一さんの手伝いかい?」 「まだ見習いだがね」 「こんなヒトデナシのところで働くなんて、何とも不憫な話じゃないか。劣悪な労働環境でマイっていないかい?」  そう訊かれたので僕は、「店主様は良い人です」とアタリサワリのない返事をしました。 「見習いって、それは表の仕事だよね?」 「ああ。まだシロには、裏の仕事を教えていない。それに、まだ来て初日だ」 「初日からこんなにコキ使っているなんて、九一さんはまさしく鬼か蛇だよ」
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