第一章「遺された心」一話「はじめての九一堂」

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「もう一個も食わないのか?」  僕がかしこまっていると、店主様がけげんな表情で訊きました。 「はい。病気のお母さんに食べさせたいので、これは持って帰りたいのです」 「う、愛い奴じゃ!」 「キューンキューン!」  アオネさんが尻尾に顔をうずめ、グリグリと頬ずりしました。 「シロはお前の玩具じゃねえよ」  店主様がため息をつきました。  その夜、寝床にしている貧乏長屋で。 「はじめてのお仕事はどうだったの?」  お母さんが心配して訊きました。 「店主様は厳しいけど、とてもキレイな人間だったよ。それにお母さんにお土産があるんだ」  アオネさんにもらったコロッケをお母さんに渡しました。 「まぁ、どうしたの?」 「うん、親切なお姉さんにもらったんだ」 「そうかい。良いから、お前お食べ」 「僕は食べたから良いんだ。それよりお母さん食べて」 「そうかい。ありがとうね」  お母さんは嬉しそうにコロッケを食べてくれました。 「もうお前も一人前だね」  お母さんが寂しそうに、ポツリと言いました。 「でもお前が立派になって、お母さん安心したよ」  お母さんが安心してくれたので、僕はほっとして眠くなりました。 「もう眠いのかい? はじめてのお仕事で疲れたんだね」 「うん」 「さあ、もう来つ寝(きつね)よ」  僕はお母さんに抱きつくと、ウトウトと眠くなりました。
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