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「もう一個も食わないのか?」
僕がかしこまっていると、店主様がけげんな表情で訊きました。
「はい。病気のお母さんに食べさせたいので、これは持って帰りたいのです」
「う、愛い奴じゃ!」
「キューンキューン!」
アオネさんが尻尾に顔をうずめ、グリグリと頬ずりしました。
「シロはお前の玩具じゃねえよ」
店主様がため息をつきました。
その夜、寝床にしている貧乏長屋で。
「はじめてのお仕事はどうだったの?」
お母さんが心配して訊きました。
「店主様は厳しいけど、とてもキレイな人間だったよ。それにお母さんにお土産があるんだ」
アオネさんにもらったコロッケをお母さんに渡しました。
「まぁ、どうしたの?」
「うん、親切なお姉さんにもらったんだ」
「そうかい。良いから、お前お食べ」
「僕は食べたから良いんだ。それよりお母さん食べて」
「そうかい。ありがとうね」
お母さんは嬉しそうにコロッケを食べてくれました。
「もうお前も一人前だね」
お母さんが寂しそうに、ポツリと言いました。
「でもお前が立派になって、お母さん安心したよ」
お母さんが安心してくれたので、僕はほっとして眠くなりました。
「もう眠いのかい? はじめてのお仕事で疲れたんだね」
「うん」
「さあ、もう来つ寝(きつね)よ」
僕はお母さんに抱きつくと、ウトウトと眠くなりました。
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