第二章「因果の花」四話「花と知る」

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「お前を斃した者を忘れたか?」 「ギ、ギルガメシュかぁ……!?」  恐怖に顔ばかりか全身を硬直させ、フンババは信じられないという表情で目の前の人物を凝視しました。  その恐怖にすくんだ瞳には、剛毅で勇壮な英雄の姿が映っていたからです。 「脆弱な人間風情が、どうしてこの時代まで生きているのか!?」  うわごとのように口ずさむフンババを前にして、僕は心のなかで数を数えていました。 (四つ──)  フンババの記憶の底に眠るかつて自分を退治した古代の英雄ギルガメシュの幻を、常さんのグラムサイトの能力で僕に投影してもらったのです。 (五つ──) 「いかな古代の魔神といえども、三人の強者を相手にはできませんよ」  レオンさんが二刀を構えて豪語しました。 (六つ──) 『シロ坊っ、終いだぞ!』  写眞器さんの叫んだ声が聴こえました。  そうして見ると──  フンババの狒々の身体が崩れて、シュルシュルと写眞器さんのレンズに吸い込まれるように、旧き魔神の醜悪な身体が消え去りました。 「九一流マトリ、決着しました」  あざやかに、店主様が宣言しました。  その声を聞いて、僕はヘナヘナと膝から崩れました。 「良く護ったな、シロ」  見上げると店主様と常さんの笑った顔が、蒼い月光を浴びてまぶしく見えました。
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