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「ありがとう、騎士さん」
差しだされた常さんの手につかまり、僕はやっと立ち上がることができました。それほどに魔神フンババを相手に、真正面から挑むのは怖かったのです。
「店主様と常さんを信じたからです」
僕は頭を下げて感謝しました。
「わたしこそ、シロちゃんを信じて戰えたよ」
「まあ、そこそこ頑張ったなシロは」
店主様が鼻をこすりながら言うと、
『このへそ曲がりが』
と写眞器さんが茶化しました。
「勇敢でしたよ、シロ殿」
レオンさんが微笑みながら褒めてくれました。その後ろに朝右衛門さんが佇んでいます。
「首斬り朝右衛門、お前さんはどうするね?」
意地の悪い笑みを浮かべながら、店主様が訊きました。
「どうするとは?」
「今回は特別サービスで、お願いされれば憑いている魔怪を撮るぜ」
「無用だ。これは首斬りの代償として、儂に課せられた宿業も同じ」
「ほほう、そうかい」
「この命果つるまで、この宿業と共に儂は時代を生きる」
そう言い残し、朝右衛門さんが背を向けました。
ゆらりと歩み去ろうとする背中に、
「ありがとうございました」
とレオンさんが頭を垂れたのです。
「精進召されよ」
朝右衛門さんが一言だけして去って行きました。それは剣を交えた好敵手への、別れの手向けだったのかもしれません。
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