第二章「因果の花」四話「花と知る」

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 その武骨な背中が去っても、レオンさんは黙然と闇を見ていました。 「どうしたレオン?」 「朝右衛門殿でもありませんでした」 「例のお龍さんを襲った二刀遣いか?」 「はい。なにかまだ、闇で蠢く不気味な気配を感じます……」 「なあに、心配いらねえさ」  レオンさんが不安をもらしますが、店主様は苦笑しながら一蹴しました。 「どうやら片付いたようだね、ご苦労さんだよ」  さざめきながら、アオネさんたちが来ました。 「隠れていたクセに、ずいぶんと偉そうだな」 「九一さんたちがヤられたら、あたしが次に出る予定だったのよ」 「嘘つけ、ヘチャムクレ」 「うるさい、ゴウツクバリ」  また、言い争いになりました。 「どうやら、しっぺい太郎の策、上手くいったようですな」  次郎長親分が手を打って喜んでいます。 「ああ。シロの機転でなんとかいったよ」 「そう言えば、しっぺい太郎とはなんですか?」  僕は答えをねだるように訊きました。 「静岡の磐田に伝わる狒々退治の昔話ですよ。 その昔、見付天神に棲みついた怪神が、年頃の娘の家に白羽の矢をさして人身御供を要求していたのです。 それを旅の僧侶と、しっぺい太郎という犬が、娘の代わりに人身御供の箱に隠れて、狒々の姿をした怪神を退治したという言い伝えがあるのですよ」
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