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その武骨な背中が去っても、レオンさんは黙然と闇を見ていました。
「どうしたレオン?」
「朝右衛門殿でもありませんでした」
「例のお龍さんを襲った二刀遣いか?」
「はい。なにかまだ、闇で蠢く不気味な気配を感じます……」
「なあに、心配いらねえさ」
レオンさんが不安をもらしますが、店主様は苦笑しながら一蹴しました。
「どうやら片付いたようだね、ご苦労さんだよ」
さざめきながら、アオネさんたちが来ました。
「隠れていたクセに、ずいぶんと偉そうだな」
「九一さんたちがヤられたら、あたしが次に出る予定だったのよ」
「嘘つけ、ヘチャムクレ」
「うるさい、ゴウツクバリ」
また、言い争いになりました。
「どうやら、しっぺい太郎の策、上手くいったようですな」
次郎長親分が手を打って喜んでいます。
「ああ。シロの機転でなんとかいったよ」
「そう言えば、しっぺい太郎とはなんですか?」
僕は答えをねだるように訊きました。
「静岡の磐田に伝わる狒々退治の昔話ですよ。
その昔、見付天神に棲みついた怪神が、年頃の娘の家に白羽の矢をさして人身御供を要求していたのです。
それを旅の僧侶と、しっぺい太郎という犬が、娘の代わりに人身御供の箱に隠れて、狒々の姿をした怪神を退治したという言い伝えがあるのですよ」
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