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「それで、しっぺい太郎なんですね」
「ほら、しっぺい太郎を短く言うと、シロになるじゃない?」
アオネさんが思いついたように言うと、
「ああ、たしかに。それもそうですな」
と次郎長親分は腑に落ちたように笑いました。
「ありがとうございました。これも九一様と皆様のお陰です」
有礼さんと常さんが、頭を下げて謝辞を述べました。
「これを、九一様に」
常さんがそう言って、「水の指輪」を差しだします。
「その身の妖精を取ること、本当に良いのかい?」
店主様が神妙な面持ちで尋ねると、
「良いのです……もう、わたしとエルフは一心同体ですから」
と常さんは覚悟したように言いました。
「たとえ人と交わっても、妖精の精を宿した子供が生まれるかもしれない」
「存じています……それでもわたしは、有礼さんと一緒になる運命を選びます」
静かにうなずく常さんに、
「生涯大事にすることを、常とその身のあやかしに契約しますよ」
と有礼さんは強くうなずきました。
「住するところなきを、まず花と知るべし──」
「九一様、それは?」
ふと店主様がもらした言葉を、常さんは意味を問いました。
「同じ場所で留まるのではなく、常に変化し続けることが芸の本質である、という意味で世阿弥が『風姿花伝』で言った言葉です」
「留まるのではなく、常に変化し続ける……」
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