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第三章「心託されて」一話「遺言の隊士」
その日、魯文さんと僕は店主様の奢りで、神田の三河屋に行くことになりました。
この三河屋は当世有名で、江戸で最初の洋食屋だと言われています。
近頃は牛鍋屋が盛んですが、三河屋は本格西洋料理が売りで、知識人の福沢諭吉さんや上流階級の人々が出入りして繁盛しているそうです。
「九一の旦那のゴチでなければ、儂のような貧乏文士はありつけませんからネ」
そう言う魯文さんは、流行りの牛鍋屋を舞台にした『牛店雑談安愚楽鍋』や、欧米の調理法を伝える最初の翻訳料理書『西洋料理通』を書いています。
それも、店主様の付き添いで食べているお陰なのでした。
「やっぱし、牛肉食わぬは開けぬヤツってんで、文明開化の恩恵は食文化が変わったことですかね」
「俺はやはり日本食が好きだが、シロにも洋食を食わせたくてね」
「ほほう、弟子思いですな。シロちゃん、洋食は初めてかね?」
「はい。でも僕、お肉食えないから」
僕はモジモジして答えると、
「大丈夫ですヨ。お品書きにパンがありますし、バター付きのパンはきっとシロちゃんのお気に召す食べ物に違いありません」
と魯文さんが胸を張って教えてくれました。
フワフワのパンという食べ物は知っていましたが、魯文さんの言うバターは初めて聞きました。
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