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「その刀はなんだ? 百姓のクセに刀を盗むとは、不届き千万な奴め」
「なに言ってやがるッ、俺はこれでも元幕臣なんだ!」
後ろ髪を結った青年が大事そうに大刀を抱え、巡査を勝ち気な眼で睨んでいました。
たしかに百姓と蔑まれるように、その身に付けた着物は汚く破れてボロボロでした。
「戯言をほざくな! お前の歳で元幕臣とは片腹痛いわ。それともなにか、元服して間もなく幕臣になったと言うのか? それだから、徳川幕府は保たなかったのだ」
巡査が青年の汚い身なりを見て侮蔑しました。
「俺を侮辱しても構わないが、徳川とその家臣を侮辱することは許せない!」
青年の猫目が怒りに燃えています。
「ちょっとお待ちください。この者をどうか許してやって頂けないでしょうか」
店主様が仲裁に割って入りました。人の諍いに介入するのは珍しいことで、常なら冷笑を浮かべて見物しているはずです。
「お前は何者だ?」
巡査が訝しげに問いました。
「写眞師の内田と申します」
「写眞師の内田……はて、聞き覚えのある名だが……」
「とんでもないことです。手前はしがない三下の写眞師で」
「おお、あの天皇陛下尊影の拝写を賜った、あの有名な写眞師の内田殿かっ。それなら申し分ない。内田殿を信用するとしようか」
巡査が急にへりくだった態度で軟化しました。
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