第三章「心託されて」一話「遺言の隊士」

6/10
前へ
/230ページ
次へ
「新撰組? まだ生き残りがいたのか」  店主様が感心したようにつぶやきました。 「生き残りで悪かったなっ」 「そう怒るな、褒めたのさ。それに、俺は新撰組の縁者なんだぜ」 「縁者……だと?」 「それは俺の店で話そうか。ここでは人に聞かれるからな」  流れ過ぐる雑踏をアゴでしゃくり、店主様が元来た道を引き返しました。どうやら、バター付きパンはお預けのようです。  眉根に皺を寄せながらも、鉄之助さんが成り行きに任せて歩き出しました。 「俺は鉄之助だ。さっきは呼び捨てで悪かったな」  鉄之助さんが歩きながら謝りました。 「僕は野狐のシロです。鉄之助さんは前から妖怪が見えるのですか?」 「子供の時分は気配だけだったが、蝦夷地でそれが見えるようになった」 「蝦夷地……ですか」 「今の呼び方だと北海道か。それより、さんは付けなくて良い。鉄之助と呼んでくれ」 「とんでもないことです。お客様に失礼ですから」 「シロはあの人に仕えているのだろう? 俺も同じだ。だから、俺たちは仲間だ」 「鉄之助……も、誰かに仕えているの?」 「さっき言ったろ。俺は土方先生の小姓(こしょう)だ」 「小姓?」 「主君の側に仕える役目だよ。俺が仕えるのは、この世に土方先生だけだ」 「そんなに凄い人なの?」
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

290人が本棚に入れています
本棚に追加