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「土方先生は別格だ。それなのに、こんな俺のために先生は……」
そう言ったきり、鉄之助が言葉を詰まらせました。それから必死に眼を凝らして、なにかに耐えているようです。
どうやら鉄之助には、相当な事情があると感じました。
九一堂に帰り着くと、レオンさんが待っていました。
「あれっ、洋食に行ったと思ったのに」
金髪碧眼なのに洋食が嫌いなレオンさんが、店の留守番をしていたのです。
そのレオンさんが刀を抱えた鉄之助を一瞥して、どうやら訳アリの状況だと察した表情になりました。
そして、二刀を腰に差したレオンさんを見て、鉄之助も表情を硬くしたのです。
「あなたは、何者ですか?」鉄之助が訊きました。
「私は大神レオンという、九一殿の手伝いをしている浪人ですよ」
「俺は市村鉄之助、元新撰組の隊士です」
「新撰組ですか。私は大神流の遣い手ですが、あなたは?」
「俺は神道無念流の目録です。……あなた、強いですね」
鉄之助が短く感嘆しました。どうやら、鉄之助がいた新撰組とは強い剣客の集団で、そこで養われた眼力でレオンさんを只者ではないと見抜いたようです。
「それで、九一堂になんの用だい?」
店主様がおもむろに腕を組んで、強い眼で睨む鉄之助に問いました。
「その前に、さっき言った言葉を説明してください」
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