290人が本棚に入れています
本棚に追加
「さっき言った……?」
「新撰組の縁者だと、さっき言いました」
「ああ、そのことか」
「そのことを、説明してください」
鉄之助が焦れながら促しました。それを聞くまでは信用できないぞ、と顔に書いてあります。
「土方歳三附属の隊士なら、松本 良順(まつもと りょうじゅん)先生のことは知っているな?」
「良順先生なら知っています。土方先生とは懇意の間柄でした」
鉄之助が驚きを隠せずに眼を見張りました。
「その良順先生は俺の師匠なんだ。長崎で二親が亡くなった俺を引き取り、色々なことを伝授してくれた。
写眞術を学んだのも、江戸で商売を始めたのも、良順先生のお陰なんだ」
「良順先生は仙台で蝦夷地行きを迷われたときに、土方先生に江戸へ戻ることを奨められました。その会見の場に、俺も小姓として付き添っていたのです」
それが運命の別れ目だという眼で、鉄之助が込み上げるように答えました。
「ああ、それを良順先生から聞いたよ。思えば土方歳三は、俺の師匠を救った恩人なのさ」
「良順先生こそ、誠の医人でした。幕府陸軍の軍医として沈みゆく幕府に殉じようと、そして一人でも多くの者を救おうとなさっていました」
「ありがとよ。同じように偉大な師匠を持って、俺たちは倖せだな」
最初のコメントを投稿しよう!