第三章「心託されて」一話「遺言の隊士」

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「さっき言った……?」 「新撰組の縁者だと、さっき言いました」 「ああ、そのことか」 「そのことを、説明してください」  鉄之助が焦れながら促しました。それを聞くまでは信用できないぞ、と顔に書いてあります。 「土方歳三附属の隊士なら、松本 良順(まつもと りょうじゅん)先生のことは知っているな?」 「良順先生なら知っています。土方先生とは懇意の間柄でした」  鉄之助が驚きを隠せずに眼を見張りました。 「その良順先生は俺の師匠なんだ。長崎で二親が亡くなった俺を引き取り、色々なことを伝授してくれた。 写眞術を学んだのも、江戸で商売を始めたのも、良順先生のお陰なんだ」 「良順先生は仙台で蝦夷地行きを迷われたときに、土方先生に江戸へ戻ることを奨められました。その会見の場に、俺も小姓として付き添っていたのです」  それが運命の別れ目だという眼で、鉄之助が込み上げるように答えました。 「ああ、それを良順先生から聞いたよ。思えば土方歳三は、俺の師匠を救った恩人なのさ」 「良順先生こそ、誠の医人でした。幕府陸軍の軍医として沈みゆく幕府に殉じようと、そして一人でも多くの者を救おうとなさっていました」 「ありがとよ。同じように偉大な師匠を持って、俺たちは倖せだな」
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