第三章「心託されて」一話「遺言の隊士」

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 店主様にそう言われて、鉄之助は沸き上がる感情を抑えられずに涙が溢れました。 「泣くな鉄之助。まだ土方歳三の小姓を名乗るなら、役目を終えぬうちは泣くんじゃねえ」 「……ッ!? は、はい!」  まるで土方歳三に言われたみたいだ、という表情で鉄之助はぐっと堪えました。 「それで、九一堂を訪ねた理由はなんだ? どういう事情があるんだ?」  店主様が再び話を戻します。 「新政府軍に追われて函館の五稜郭から俺を脱出させるときに、土方先生はある命令を託したのです」 「函館から脱出して来たのか」 「土方先生が亡くなった今、それは先生の遺言となりました」 「土方歳三は、新政府軍の総攻撃に僅かな兵で抗戰して、凄まじい最期を遂げたそうだな」 「はい。新政府軍を相手に徹底抗戰して、最期は銃弾に斃れて戰死したと聞きました……」  そこで鉄之助は、感極まってしばし声を失ったのです。 「その土方から預かった遺言とは?」 「新撰組が瓦解した原因の、ある事件に関わることです」 「その事件とは?」 「新撰組局長であった近藤 勇(こんどう いさみ)先生が、流山で捕縛され斬首されたことです」 「ほほう。それで土方の遺言とはなんだ?」  店主様が興が湧いた声で尋ねます。
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