第一章「遺された心」一話「はじめての九一堂」

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「レオン、シロは世間知らずなだけだからな」  店主様が仏頂面で言いました。 「シロ殿ですか。失礼しました。よろしくお願い致します」 「僕は野狐のシロです。半人前ですが、よろしくお願いします」 「お互いに半人前ですね」  僕たちは笑った。 「それより、何だ用事とは?」  店主様が苦虫を噛み潰したように訊くと、 「そうでした。九一堂を探していた女人がおられたので、私が案内して来たのです」 「お客人か、でかしたぞレオン」  店主様が途端に営業スマイルになりました。 「金の亡者が」と毒づくアオネさんをよそに、 「それでお客人はどこにいるんだ?」  と作り笑いをしながら店主様が尋ねます。 「お仕事中に失礼します。内田九一様ですね?」  戸口から女の人が入ってきました。  墨のように黒く長い髪に、雪のように白い肌、透き通るように儚げな女の人です。 「こいつは格別の別嬪さんだッ」  目尻をたらした店主様の声が、僕の驚嘆した叫びでかき消されました。 「お母さん!?」 「な、なにッ、シロの母さんか!?」  全員が声をそろえて驚きました。 「息子がお世話になっています。お忙しいと思いましたが、せめてご挨拶だけでもと、お伺いさせて頂きました」
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