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「レオン、シロは世間知らずなだけだからな」
店主様が仏頂面で言いました。
「シロ殿ですか。失礼しました。よろしくお願い致します」
「僕は野狐のシロです。半人前ですが、よろしくお願いします」
「お互いに半人前ですね」
僕たちは笑った。
「それより、何だ用事とは?」
店主様が苦虫を噛み潰したように訊くと、
「そうでした。九一堂を探していた女人がおられたので、私が案内して来たのです」
「お客人か、でかしたぞレオン」
店主様が途端に営業スマイルになりました。
「金の亡者が」と毒づくアオネさんをよそに、
「それでお客人はどこにいるんだ?」
と作り笑いをしながら店主様が尋ねます。
「お仕事中に失礼します。内田九一様ですね?」
戸口から女の人が入ってきました。
墨のように黒く長い髪に、雪のように白い肌、透き通るように儚げな女の人です。
「こいつは格別の別嬪さんだッ」
目尻をたらした店主様の声が、僕の驚嘆した叫びでかき消されました。
「お母さん!?」
「な、なにッ、シロの母さんか!?」
全員が声をそろえて驚きました。
「息子がお世話になっています。お忙しいと思いましたが、せめてご挨拶だけでもと、お伺いさせて頂きました」
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