椎名 海

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寄せては、引いて。 どこか落ち着く波の音を聞きながら、今日もいつもの朝。 だけどこれは本当の波じゃない。 誰かがヒーリング用に創作した音源。 これじゃあ満足出来ない。 でもここは都会だし、海は見えないから。 仕方ないといつも諦める。 私は海が好き。 きっかけは、小さい頃。 よく遊びに行く田舎のおばあちゃんの家の近くに海があって。 気がついたら、ずっと側にあった。 あるのがあたり前だった。 太陽に反射して、水辺が淡い煌めきを放つ。 波の音が心地いい。 浜辺に寝そべって。 キレイな青を眺める。 海の青と、空の青が分かれることなく重なって。 青に包まれる。 ザザンッ……ザザンッ…。 作り物の波の音が耳から伝わる。 もう少し。このままでいたい。 目を閉じて静寂に浸る。 そんな私の風景を壊してしまったのは、耳をつんざく電車の音だった。
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