第1章 朝礼

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「引継ぎの問題とかじゃない。どうせ桜井自身の怠慢だろ。こいつは仕事も出来ないくせにすぐさぼりたがる。一生懸命に仕事をやらないんだよ。一緒に行ってくれるのか。駄目先輩のお守りをお願いして悪いけどお願いできるか。もし先方の怒りが収まらないようだったら俺がちゃんと改めて謝罪する。まずは前任者として一緒に謝ってくれると俺の顔もつぶれなくてすむ。結果また報告してくれ」 駄目な先輩を後輩がかばうことによって山田の株は上がった。支店長が謝りに行くという恥をさらさずにすませる上への気遣い。配慮。加えて自分の業績のアピールすることを忘れなかった。生き馬の目を射抜くこの業界で着実に山田はステップアップの階段を上っていた。下に見ていた後輩はいつの間にか社内で力を持ってしまっていた。と同時に己の実力の衰えを感じた。目を背けたくてもまぎれもない事実だった。 結果を出すことが全て。10年以上営業をやって来た桜井はその現実を今まで嫌というほど体験してきた。売上数字を稼げない先輩は下から馬鹿にされ、突き上げをくらう。下剋上が当たり前だった。事実、社内の決め事の際も結果を出していない営業マンには発言権すらなかった。 山田は結果を残すことで、若いながらも新しい新規先である『ナナナホーム』をもまかされる存在になっていた。全国に支店がある大手ハウスメーカーだ。対して桜井が任されているのは地元の工務店が主だった。規模も拡販余地もまるで違う。差は歴然と存在していた。出世を意識するタイプとは自分では思っていなかった。しかし、年下にこれほどまでに差をつけられたことが桜井の自尊心を大きく傷つけていた。
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