第1章 朝礼

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会議を終え、倉庫脇にあるトイレに行こうとすると業務部の吉田が待っていた。顔には怒りの色が浮かんでいた。吉田は業務部の長として配達や工事の段取り、采配をしている。浅黒い顔に髭、丸太のような腕と巨体が体を揺らしている。吉田が前に重量が50キロ近いスチールドアを軽々トラックに積んでいるのを見かけたことがある。いやでも緊張が走る。 「桜井、いつまで何の役にもたたねえ会議やってんだよ。町場建築倉持邸の玄関ドア収まらないって連絡があったぞ。専務も現場にいるっていうから早く行けよ」 まさか。血の気が引いた。今日は自分が下見に行った玄関ドアのリフォーム工事を自社の工事部隊で取り付ける日だった。自分の採寸が間違えていたのかという不安がよぎる。もし、玄関ドアを交換するとなるとざっと30万はかかる。売上がない上にさらに発注ミス。始末書は免れない。すぐに現場確認に向かう必要があった。収まらないといってもサイズ違い、商品違い、様々な要因が考えられる。一刻も早い現場確認が鉄則だった。遅れれば遅れるほどクレームの度合いは大きくなる。先方の怒りが大きくならないうちに謝罪すれば大事にならないですむことは何度も経験済みだった。
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