第1章 朝礼

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血の気が引いた。もし担当替えになってしまったら益々売上が減る。ただでさえ足りない売上げの補填の見込みは何もなかった。 「専務。申し訳ありません。私の力不足でした。今後、絶対にこのような事は起こしませんのでもう一度チャンスを頂けませんでしょうか。お願いします」 なりふり構わずテーブルに頭をすりつけた。 本来であれば頭を下げたくない相手だった。いけすかなかった。普段はこちらが相手をさげすんでいた。それが見抜かれたのかも知れない。所詮親が築いた地盤を受け継いだ2代目。たたき上げで地べたをはいつくばってきた自分とは違う。仕事とは言えそんな坊ちゃんに頭を下げるのが苦痛だった。 しかし今は専務の足にすがってでも思い直してもらうしかなかった。 営業マンとして、割り切って担当すればいい。所詮は社外。多くの担当先の一つに過ぎない。しかし、ここで担当を替えられ売上げが減れば逃げられない社内の長である黒澤からさらなる叱責を受けることになる。 俺のことをどうぞ見下してくれ。こんな惨めな俺を専務から見える後頭部は薄くなっているだろう。どうぞ笑ってくれ。禿げた頭を見て無様な奴だと蔑んでくれ。だから担当だけはーー。 「山田君、支店長と相談して来て」専務は桜井には見向きもせず、山田に向かって判決を告げた。まるで今の出来事が存在すらしていなかったかのような冷淡な口ぶり。存在すら認めてもらえなかった。空気として扱われた。惨めさに唇が震えた。
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