第1章 朝礼

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「町場建築さんは順調です。人間関係を作るよう週に3回は訪問をしていますし、専務様に次の赤間邸のサッシもお願いしています」 「会議の場だからって嘘言わないでください」 「・・嘘?」 額に汗が滲んだ。実のところ人間関係は良好とはいいきれなかった。かと言ってなにか大きな問題を起こしているわけでもなかったと思う。人と人が心を通わせるのが営業なら専務に対しての営業は出来ていないだろう。営業を長く続けているとわかる。初めて相手に会ってから自然に引き寄せられるように続いていく関係性と、磁石のN極同士のように強く反発してしまう関係性。どちらかというと町場建築の専務とは後者の関係性だった。営業において後者の関係性である場合、こちらの思索とは裏腹に関係が悪化することがある。ちょっとした電話の応対ひとつ、態度ひとつが先方にとって耐え難い苦痛になってします。これはもし自分が何かを買う立場だったらすぐに納得できることだった。何も気に入らない営業マンからものを買う必要性など微塵も無いのだ。 「私のところに町場建築の専務からクレームの電話が入ってるんですよ。あまりにも桜井さんの対応が悪いからどうにかしてくれってお怒りです。もう引き継いでから二ヶ月も経つのに前任者にクレームが入るのは恥ずかしいと思わないんですか?」
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