一章

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「……ボスのパトロンさんたちが関係してる?」 「そんなァ。なにやってる人たちなのか詳しく知らないけど、ただのお金持ちって聞いてるよォ?」  二人が声をひそめながら見つめていると、覆面パトカーの後部座席が開いた。降りてきたのは女の子。小さいけれど、小学校高学年から中学生というところだろうか。  なぜパトカーから少女が? とルイが唸っていると、アイが窓に張り付いた。 「ん、『アリス・ビスケッツ』の新作ワンピだァ! 超お金持ちかも! ありゃ、ルイさん。やっぱりウチの店に入ってくるよォ……?」  上から見ているだけではわからないけれど、裾の広がる水色のワンピースをふわりと揺らして、少女は店へと続く階段を上がる。姿が見えなくなったその後ろから、私服の刑事らしき男も一緒に上がってくる。足音が二つ分聞こえ、二人と客は入口へ意識を集中させた。濃いグリーンの扉の前で足音が止まり、ノブが回る。来客を知らせるベルが鳴った。  警告音のように聞こえたのは、ルイだけだったろうか。いつも聞いているはずのベル音が耳に残って、足を踏み入れた少女の声がそれをかき消した。 「『六条院陽一』さんはどの方ですの?」 「ちょっとちょっと、ヒメちゃん!」  私服刑事の制止を無視して、ヒメと呼ばれた少女はもう一歩、店内に入り込む。 「六条院陽一さんです。こちらにいらっしゃることはわかっています。名乗り出ていただけると助かります」  堂々としたものだった。小学生、中学生そのくらいの少女にしてははっきりと物を言う。その上丁寧で、とってつけた感もない。このように振る舞うよう育てられたのだろう、姿勢も良く、着ているものも上等だ。  アイの言った『アリス・ビスケッツ』というブランド服は不思議の国のアリスをモチーフにしているのか、水色のワンピースに白いエプロン。頭にはシンプルなカチューシャ。服装に相応な幼い顔と小さい背の中で一か所だけ大人びて見えるのは、片側へ垂らした薄茶色のウェービーヘアーだけ。  顔の中で猫を彷彿とさせるピンと上がった目尻からは、意志の強さが伺える。それでもやはり、全体には幼さが目立った。  アイが軽いステップで少女に近づく。目的は彼女のワンピースを間近で見るためだったようで、上質な生地を勝手に堪能し始めた。 「えっと、服がなにか?」
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