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バイブレーションが店内に響いて、刑事が携帯電話を取り出した。頭をかいて壁から離れると、陽芽子の肩をポンと叩く。
「すまない、呼び出しだ。ヒメちゃん、何度も言うけど帰るときはちゃんと人を呼ぶんだぞ。門限はわかってるよね。それから……」
「もう、わかってます! あとは一人でも大丈夫だから、早くお仕事に行ってちょうだいな!」
お目付け役の刑事を店の外に追い出し、陽芽子はくるりと振り返る。その正面から会計を終えた客が一人、また一人と帰っていく。
「あ、あれ、え……?」
懐中時計を取り出し、確認した時刻は午後三時。ティータイムにはもってこいなはずなのに、陽芽子に「がんばれよー」と声をかけながら出ていってしまう。とうとう、最後の夫婦が会計を終えた。
「ゴメンなさいねェ宮山さん、奥さまもォ」
「いいのよ、また来るわ」
アイが手を振ると、夫婦はニコニコしながら出ていく。メイド姿のアイ、オカマのルイ、アリスの服を着た陽芽子だけが店に残った。
あっけに取られた陽芽子を放置したまま、カップや皿を二人がかりで下げていく。閉店の札が下がったのを見て、陽芽子は慌てた。
「え、あの……、私、もしかしてお邪魔を……?」
「アンタのために人払いしたわけじゃないわよ」
言いながら、ルイはカウンターの内側へ消える。ザブザブと水音が聞こえ、言葉の足りないルイの代わりに、アイが一枚の葉書きを陽芽子に見せた。店内に置いてある、インフォメーションペーパーのようなものらしい。オモテ面にはこうあった。
◇代行屋 Cat's eye◇
あなたの思う『誰か』の代わりをつとめます。
もちろん、『あなた』の代わりにも。
ご依頼はTEL ○△○‐○○×□‐□□△△
一〇:〇〇?二四:〇〇(無休、まずは電話にて)
「代行屋……?」
陽芽子がハガキを裏返すと、この店のインテリアの写真があった。
◇カフェ Cat's eye◇
代行屋以外の時間には、おいしいコーヒーと天然素材の甘いものであなたをお待ちしています。
営業時間 月?土 一〇:〇〇?閉店まで
代行屋の仕事によって閉店時間変更します。
詳しくはホームページをご覧下さい。http://~~
access→東京都新宿区……
「キャッツ・アイ……?」
「そそ、キャッツ・アイ! あれェ、ヒメちゃん知らないんだァ。ま、ボクもリアルタイムの世代じゃないケドね」
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