一章

4/9
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 バイブレーションが店内に響いて、刑事が携帯電話を取り出した。頭をかいて壁から離れると、陽芽子の肩をポンと叩く。 「すまない、呼び出しだ。ヒメちゃん、何度も言うけど帰るときはちゃんと人を呼ぶんだぞ。門限はわかってるよね。それから……」 「もう、わかってます! あとは一人でも大丈夫だから、早くお仕事に行ってちょうだいな!」  お目付け役の刑事を店の外に追い出し、陽芽子はくるりと振り返る。その正面から会計を終えた客が一人、また一人と帰っていく。 「あ、あれ、え……?」  懐中時計を取り出し、確認した時刻は午後三時。ティータイムにはもってこいなはずなのに、陽芽子に「がんばれよー」と声をかけながら出ていってしまう。とうとう、最後の夫婦が会計を終えた。 「ゴメンなさいねェ宮山さん、奥さまもォ」 「いいのよ、また来るわ」  アイが手を振ると、夫婦はニコニコしながら出ていく。メイド姿のアイ、オカマのルイ、アリスの服を着た陽芽子だけが店に残った。  あっけに取られた陽芽子を放置したまま、カップや皿を二人がかりで下げていく。閉店の札が下がったのを見て、陽芽子は慌てた。 「え、あの……、私、もしかしてお邪魔を……?」 「アンタのために人払いしたわけじゃないわよ」  言いながら、ルイはカウンターの内側へ消える。ザブザブと水音が聞こえ、言葉の足りないルイの代わりに、アイが一枚の葉書きを陽芽子に見せた。店内に置いてある、インフォメーションペーパーのようなものらしい。オモテ面にはこうあった。 ◇代行屋 Cat's eye◇  あなたの思う『誰か』の代わりをつとめます。  もちろん、『あなた』の代わりにも。  ご依頼はTEL ○△○‐○○×□‐□□△△  一〇:〇〇?二四:〇〇(無休、まずは電話にて) 「代行屋……?」  陽芽子がハガキを裏返すと、この店のインテリアの写真があった。 ◇カフェ Cat's eye◇  代行屋以外の時間には、おいしいコーヒーと天然素材の甘いものであなたをお待ちしています。  営業時間 月?土 一〇:〇〇?閉店まで  代行屋の仕事によって閉店時間変更します。  詳しくはホームページをご覧下さい。http://~~  access→東京都新宿区…… 「キャッツ・アイ……?」 「そそ、キャッツ・アイ! あれェ、ヒメちゃん知らないんだァ。ま、ボクもリアルタイムの世代じゃないケドね」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!