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「なんだろう?桃みたいに見えるけど....」
流れてくるものはジークの目の前をゆっくりと流れていき、10メートル程離れたところで石に引っかかった。
気になってしょうがないジークは引っ掛かりが外れてまた流されないように急いで拾いに行った。ブツは桃のような形をした金銀財宝で飾られた王冠だった。
「これ...金か!?しかも宝石がめっちゃ付いてる....!?これがあれば学校の借金も帳消しできて村も豊かになるぞ!!」
ジークは様々な夢が膨らんでいくのを感じた。ジークは学校に金を借りて通っていた。村中の金を集めても足りたのは入学金だけだったからだ。7年間の金を返せる上に来年分も払えるはず!!と意気込んでいたジークだが、夢は急速にしぼんでいった。
《ほう、今度の盗人は随分弱々しいな》
!!!!??
前後左右を見渡しても誰もいない。だが風は強くなってきたようで草木が大きく揺れている。嵐が来たわけでもない。空は雲が1つもない快晴なのに大きな影が1つ。
「ど、ドラ、ゴン」
《盗人よ。物を盗む時は相手を選ぶんだな。》
選んでません!!盗んでません!!拾ったんです!!助けてー!!
声にならない弁解が脳裏によぎる。
《もう1つ教えてやろう。相手に何かする時は死を覚悟することだ!!》
その一言と同時にドラゴンは襲いかかってきた。当たれば死ぬであろう太く逞しい腕の攻撃を尻餅をついて避けると後は必死に走った。捨てればいいのに王冠も一緒だ。
そして30秒も経たずに追い詰められた。
《もう終わりか?盗人よ。儂の物は全て儂のものよ。金貨だろうと銀貨だろうと一枚たりとてくれてやるものか。》
ジークはガクガク震えるだけで声も出せない。ただただ目の前のドラゴンをジッとみるだけだった。それはドラゴンが口を開き、ジークを飲み込もうとする瞬間まで変わらなかった。様子が変わったのはドラゴンの方だった。
何かに気付いたようで首を引っ込めると頻りに周りの匂いを嗅ぎ、ある方向をジッと見つめた。そして目をスッと細めた。
《盗人よ。運がいい。どうやら根城に大量の蝿が集っておるようだ。全員宝目当てと見た。貴様はすぐにでも殺せるからな。少し猶予をやるとする。》
そう言うとドラゴンは飛び立ち、先ほどまで見つめていた方向へと飛んで行った。
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