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慌てて草むらに身を隠し、息をひそめる。そんなジークにドラゴンは苦笑をもらした。
《盗人よ。そこにいるのはわかっておる。出てきたらどうだ....》
ジークはチラッと覗き見、すぐさま殺られない様子を確認し、おずおずと草むらから抜け出た。
《ようやく姿を現したな、盗人よ。自ら喰われにくるとはなぁ》
ドラゴンは血だらけで動くのもやっとという風貌なのだが、それを感じさせない覇気をジークに感じさせた。ジークは顔面蒼白になりながらも本題を切り出そうと口を開いた。
「こ、この王冠をか、返しにきました。そ、それと.....この猪も差し上げます」
途中で起きて暴れだしたため、2度ほど王冠で気絶させ、必死に引っ張ってきた猪を目の前のドラゴンに差し出した。何回捨てようと思ったことか....
《ほう...わざわざ返しにくるとは良い心がけだ。貢物としては些か不満だが、生きのいい獲物までおる》
「えっと、王冠は盗んだんじゃないんです!!川から流れてきたのを拾ったんです。だから...」
ドラゴンはジークの言葉を遮り、不敵な笑みを浮かべて言った。
《助けてくれ、か?そんなこと知ったことではない。》
「そんな......」
ジークの目の前は真っ暗になった。待ち受ける未来が死しか見えず、絶望が覆い吐き気が止まらなくなってきた。だが、そこに一筋のクモの糸より細い光が射し込んだ。
《だが、もう宝も盗人もどうでもよい。......どうせもう朽ち果てる身体だ。》
「え!!じゃあ.....」
ドラゴンに睨まれ、ジークは途中で口を閉ざした。心では助かることに感激し、今にも踊りだしたいくらいだ。
《もうよい.....未練がないわけではないがな。どうにも彼奴らがあの膨大な宝を手にした後の堕落していく様を見てみたい気もする》
何人生き残っておるかは定かではないがなと言いながらドラゴンは身じろぎをし、ジッとジークを眺めた。
「な、なんでしょうか?」
嫌な予感を感じ、冷や汗をかきながら問いかけた。
《契約を組まぬか?》
ジークが理解できずにいるとドラゴンは説明を始めた。
《契約を組もうではないか。お主達が使い魔契約と言っているものだ。我が身は朽ち果てるが契約をし、魂をお主に移すのだ。それで儂は彼奴らが堕ちる様を見れる。お主は生き残り、儂という力を得る。悪い話ではない》
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