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秋の鬼ごっこ写生大会がやってきた。鬼は与えられた得物で逃げ手を攻撃してくるが、生き残って鬼を写生できれば賞金十万円だ。誰も写生ができなければ、賞金は鬼のものとなる。
全校生徒がグラウンドに整列する中、先生がくじを引いた。
「今年の鬼は……、嵐花くんだ! 得物は手榴弾とする。それでは始め!」
嵐花は先生に指名を受けて、百までの数を数え始めた。
「一二三四五六七……」
「はえぇ!」
生徒たちはスケッチ道具を手に取り、一目散に逃げ出した。
「九十八……九十九……百!」
嵐花は得物箱から手榴弾を取り出して安全ピンを抜き、手近な茂みへ放り投げてみた。すると爆音とヒキガエルのような悲鳴とともに、五~六人の生徒が吹き飛んだ。
「ちょ、洒落になんねぇよ!」
生徒たちは嵐花の死角に入りながら、素早く物影から物影へと移動するが、その間にも逃げ遅れた生徒たちが次々と吹き飛んでいく。
「こうちょこまかと移動してたんでは、まともに写生できないな」
「俺たちがやられるのも時間の問題だぞ」
「よし、オレにいい考えがある!」
生徒の一人がグラウンドの中央へ飛び出した。そして制服の前をばっとはだけて、
「嵐花! 好きだーー! 付き合ってくれーーーー!」
「なっ……、なっ……、なにをっ……!」
嵐花が真っ赤になって、へなへなとたじろいだその瞬間、
「よし今だ! みんな取り囲んで写生しろ!」
「うおーーーーー!」
「そうはさせるかっ!」
嵐花はありったけの手榴弾を取り出した。
「ばかめ、この至近距離じゃお前もただでは、あっ……!」
「あ……」
ばらりと散らばる手榴弾の安全ピン。
どーん!
日は暮れた。
茜色に染まる中、先生たちはグラウンドに仲良く倒れ付した生徒たちを見て、
「青春ですなぁ」
「ですなぁ」
と、清々しい笑顔で何度も頷くのであった。
ほっこり
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