待合室

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「さて、誰も知らない間に人を一人を殺すにはどうするか……。そりゃ誰もいない所で殺せばいいね。犯人以外の乗客が全員降りた後。運転士は一両目にいるんだから気付かない」  吐き出す息も白く、窓ガラスを再び曇らせる。時折、窓を揺さぶる風が高い不協和音を添える。 「でも、これだと被害者が犯人と二人きり、最後まで二両目に残らないといけない。でも被害者が最後まで残るかな。そもそも二両目に乗るとも限らないし」  窓越しに光の帯が過ぎる。久々の車が通った。テールライトが消えるのを見届けると、紗綾はもう一片チョコを口に運んだ。 「だから結局、可能性の問題ってこと。列車が到着した時、被害者を二両目に留めるよりも、列車の到着前に二両目で殺しておくのが楽だ。でも、そうなると他の客が気付かないのは不自然。さて、この二つを解決するのは可能か……」  しばしの沈黙がストーブの燃える音に混ざる。低く、静かに響く。 「可能だったのね」  しばらくして口を開いた舞に、紗綾は哀しく頷いた。雪が滑り落ちる。窓の外がさっと白に染まる。そのまま吹き散っていく。 「出発駅の時点で殺しておけばね。後ろの車両に『回送車両につき立入禁止』って札を提げておけば、他の乗客は入って来ない」 「でも」 「うん。もちろん反論も考えていたと思う。誰かにイタズラされたって言えばいい。だけど、その出発駅から乗っていた人間がいれば、その時既にそういう札があったことを証言する人がいれば。それを提げる機会があるのは運転士だけ。結局、それが決め手になった」  遠く踏切の音が聞こえてくる。 「結局、アリバイ作りだけに趣向を凝らしすぎたの。アンバランスな犯罪は破綻しやすいってこと」  舞は勢いよく緑茶を流し込んだ。列車がやってくる。 「さあ、行こう」  扉を開けると、凍てついた風と共に雪が舞い込む。窓の曇りが一瞬晴れたかと思うと、連なる山々が目の前に広がった。 「目的地はあの向こう?」  顔を上げると、紗綾は頷いた。雪を舞い上げる列車。二人が乗り込むと、低く音を轟かせ、この寒村の駅を発った。一路北国を目指し……。
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