第3章 裏切り者のカルテット

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「風評被害ってのはなかなか消えないもんだ。特に今のネット社会だったらなおさらな」 「圭太……」 「でも、愛里のお陰で、本来なら永遠に消えることのない風評被害が出てもおかしくなかったのに、ああやってみんなの前で真実を話したから風評被害は解消された」  そうなのだ。事件が早期に決着し、それを多くの人が目撃したため、農学部のシイタケも、レイアの名誉も守られたのだ。  レイアは満場一致でミスコン優勝。  農学部の豚汁屋は来年も出店が決まったし、例年通りシイタケのタイムセールが行われることになった。秋山は大喜びだ。  学祭としても、食品提供における衛生管理の厳しさがかなり増したが、むしろそれはいいことだろう。 「お前は正しいことをしたんだよ」 「そう、ですかね……」 「そうですよ!」  颯太を始めとした全員が愛里に頷きかけた。  夢を追い続けること。それはとても辛いことだ。  けれど、理解者がいれば、たとえ辛くても乗り切っていける。  圭太は笑顔を見せた愛里に安心したのかこう切り出した。 「じゃあ、そろそろ俺は比久羅間村に帰るわ。まさかこんなに東京に長居するとは思わなかったよ」 「ああ、そうですか。また来てください。今度はちゃんと東京を案内しますよ」  愛里は立ち上がる。せめて、駅までは見送ろうと思ったのだ。 「次は愛里が村に戻ってこいよ」 「え、でも……」 「お前の父さんと母さん、心配してたぞ。そのマフラーだってお前が寒さで風邪を引かないようにってわざわざ編んだんだってよ」  愛里のデスクのハンガーには数日前に愛里のマンションに実家から届いたマフラーがかけられていた。暖かそうな毛糸のマフラーだ。 「愛里は村でお前の理解者が俺しかいないと思ってるだろ」  愛里は頷いたが、圭太は首を横に振った。 「そんなことないよ。みんな、お前のことを応援してる。みんなは知らないだけなんだ。愛里がどんなに凄い奴かって。だから過剰に心配してるだけなんだよ。……だから俺が話しといてやるよ」  圭太は重そうなボストンバッグを肩にかけると、手を挙げた。 「愛里は誰からも尊敬される凄い科学者にいつかなれるって。ノーベル賞をきっと取るって」  そう言って唖然とする愛里を背に、颯爽と研究室から出ていく。しばらくして愛里は慌てて立ち上がり、彼の後を追った。 「あ、ちょっと圭太。お、送っていきますよ!」  
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