第3章 裏切り者のカルテット

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「体重計ってことか」 「体重計は体重計でも分子の重さを測る体重計です」 「何じゃそりゃ」 「約1億円しますよ」 「……は?」 「いやだから、この機械、ひとつで1億円くらいです」 「……た、宝くじでも当てたのか」 「教授が研究費として稼いでくるんです。理系の研究室の財力は教授の力によるところが大きいですね。うちにあるどの機械も数十万単位の値段がするものがほとんどです」  圭太は口をあんぐりと開けたまま呆然としている。そんな様子を見て愛里は腰に手を当てて言い放つ。 「世の中ではほとんどニュースにはなりませんが、研究にはとてもお金がかかるんです。お金だけではありません、時間もです。分かってくれましたか?」 「それは分かったけど、正直こんな機械に1億円もかける意味が分からない」 「なっ……!」  どうやら今の一言はカチンときたようだった。だが、颯太ですら原理をよく理解せずに使っている機械の有用性を今日初めて研究室に入ったような部外者に説いたところで理解してもらえるはずがない。ごもっとも――愛里には悪いが颯太は心の中で圭太に同意した。 「それにしてもさっきから外が賑やかだな」  機械の説明に飽きたのだろう、分析室の窓から外を見渡す圭太。  ここは校舎の4階。窓からはキャンパスがぐるりと見渡せる。確かに見れば、校舎の至る所で人が作業している。どうやらテントを張っているようだ。  愛里もたった今気付いたとでもいうかのように圭太と一緒になって窓の外を見渡している。 「彼らは何をしているんですか」 「ああ、明日から3日間、東央大学の学祭が開かれるんですよ」 「学祭? 文化祭みたいなもんか!?」  そういえばそんなイベントもあったな、と愛里は頭を掻いた。  東央大学の学祭といえば、基本的には大学1、2年生が中心となって運営する年に1度の一大イベントだ。例年、学生による約500の企画が参加し、来場者は3日間で10万人を上回るといわれている。  つまり、屋外で作業をしている者達は学祭で使う屋台の設営をしているということだろう。誰もが皆、笑いながら重たいはずの柱や机を運んでいる。男女がふざけ合っているのを見て、これが一般人の言うリア充というやつなんだろうかと愛里は考える。
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