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風もなく、非常に穏やかな日だった。
東央大学学園祭初日は麗らかな秋の日差しの下、賑わっていた。恐らく、1年のうちで最も東央大学に人が集まる日であることは間違いないだろう。家族連れや若者のグループが薄手のコートやマフラーを着込み、次々と正門からキャンパス内へと入ってきていた。
東央大学のキャンパスは今や模擬店や屋台で占拠されており、普段の静かなキャンパスとは別の次元――まさに異次元空間のように愛里の目に映った。
キャンパスの正門からずらりと並ぶテントの数々。校舎の中も教室全体を使った喫茶店や展示室、お化け屋敷などがひしめいているはずだ。
あちこちから上がる香ばしい匂いのする煙が鼻孔を刺激してくる。焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、チュロスにワッフル、クレープにかき氷。どれも炭水化物と塩分中心の栄養価の偏った食べ物だが、人間の体は正直なもので、こうしたジャンキーなものをみるとつい食指が動いてしまう。お祭価格も忘れてしまうほどに。
「圭太、ほどほどにしとかないと太りますよ」
「大丈夫。どうせ村に帰ったら畑仕事と野菜中心の食生活に戻るんだ。今のうちに食いだめしとかないとな」
売り子の宣伝の声、客が笑い合う声、遠くから響くイベントの開催を報せる放送――音という音が混ざり合って賑わいを生む。声を張り上げないと届かない。
圭太はフランクフルトを咥えながら、左手にたこ焼き、右手にケバブを持っている。それらを器用に口へと運んでいる。
「神楽坂さんもどうです?」
「そうですねえ。日差しはありますが少し肌寒いので温かいスープか何かが食べたいです」
その言葉に颯太は学祭のパンフレットを広げる。キャンパスマップは今や店の名前やイベント会場があちこちに示されており、ディズニーランドのマップのようになっていた。
「ああ、うん、今年もやってるな。神楽坂さん、おすすめがありますよ」
「おすすめですか?」
「はい。うちの農学部の有志で開いている模擬店があるんです。美味しい豚汁が飲めるんですよ」
「豚汁ですか。いいですねえ。野菜とお肉が効率的に摂取できますから私は好きですよ」
「ただの豚汁じゃあないんです。農学部が群馬の方にひとつ山を所有しているのはご存知ですよね」
「はい。1年生の頃、オリエンテーションと称してそこに行きましたね」
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