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東央大学の農学部はフィールドワークの場として山をひとつ所有している。幅広い生態系を対象としたフィールド研究を行うためには山という環境は打ってつけなのだ。雑木林に草原、四季の影響も強く受けるうえ、私有地なため部外者も入り込まない。
農学部生の一部はその山で住み込みで研究をしている。どういった研究かはあまり詳しくないが、野菜や穀物の畑の新しい形態を模索したり、牛や羊などを放牧して研究したり、それらの排泄物をエネルギー転用する研究を行っていたり、山でしか見れない植物の生態系を調査したりと様々なことを行っているらしい。
「普段は山暮らしをしている生徒達が学祭の開催に伴って東京まで来ているんです。大量の収穫した野菜と山で育った豚の肉を持って。そしてここで豚汁にして振る舞う。全て農学部産の食品で作られたものらしいです。無農薬、自然派がキーワードらしいですよ」
発酵食品である味噌まで自作というのだから驚きだ。
「わあ、素敵です! ぜひ行きましょう」
興奮した様子で愛里が言った。
愛里が喜んでくれた。それだけで颯太は得意げな気持ちになれる。
「ええっと、ここを左に曲がって……うん、この先ですね」
愛里と圭太を先導して歩く颯太。圭太は買ったものを咀嚼するのに夢中になっており口数が少ない。まるで本当のデートのようだと思った。
数分歩くと、颯太の言っていた豚汁の屋台が見えてくる。どうやら盛況のようだ。長い列が屋台の外に伸びている。
「今ならシイタケをトッピングしてもらえるみたいです。……これは並ぶしかありませんね」
屋台の前のエプロン姿の女子生徒が『シイタケトッピング』と書かれた紙製の看板を振り回して叫んでいる。
「ああ、このシイタケは凄いんですよ。肉厚でジューシーで。まるでお肉みたいだって評判なんです。できるだけそれを実感してもらうために、ただでさえ普通よりも大きなシイタケを縦横に切って4等分して提供するんです」
「それは楽しみですねえ」
確かに扇形をしたシイタケの切り身が豚汁を受け取った客の器に盛られている。このシイタケも農学部の所有する山の原木で育てられたものだという。市場に出回るものより1回りほど大きいことが特徴のようだ。
「キノコといえば秋の味覚の代表だからな! そういえば、昔はよくキノコ狩りしたなあ」
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