第3章 裏切り者のカルテット

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――――  チン、と電子レンジが小気味のいい音を立てた。  愛里は皿に盛った湯気を上げるパスタにレンジの中から取り出した熱々のパスタソースをかける。  ここは、研究室内に設置されたお茶室だ。お茶室といっても、テーブルやお茶を淹れるセットの他に、今しがた愛里が乾麺を茹でるのに使っていたコンロや冷蔵庫、電子レンジにオーブントースターなどの機器から鍋や包丁、食器などの調理器具一式も揃っており、もはや狭いアパートの一室といってもよいくらいだ。  これ以外にも、誰かが持ち込んだ漫画本や小説、寝袋なども揃っており、本当にここで生活することも可能である。ちなみに、こうしたお泊りのできる研究室(ラボ)のことを皆はラボホテルと呼んでいる。 「神楽坂さん。今日のお昼はレトルトのパスタなんですね。珍しい」 「そうだね。神楽坂さんはいつも手作り弁当だよね」  現在時刻は昼の13時を少し過ぎたところだ。愛里よりも一足先に昼食を終えたのであろう福豊颯太と笹島誠治助教のふたりがお茶を飲みながら愛里に声をかけた。 「まあ、基本的には夕飯の残り物ですが。今日はこれが実家から届いたので」  そう言って愛里は手に持ったパスタソースの空き容器をふたりに見せる。最近話題のパスタソースだ。パスタソースだけなのに数百円するため、普段の愛里ならば絶対に買わないが、確かに高級なだけあって美味しい。 「そういえば神楽坂さんの実家ってどこだっけ」 「とても田舎です。多分聞いても知らないと思いますよ。山陰の比久羅間(ひくらま)村という所です。当然、携帯の電波は届かない限界集落です」  愛里は出来上がったミートソーススパゲッティの匂いを鼻いっぱいに吸い込みながら答える。 「何だか凄い名前の村ですね」  颯太は頭の中でどういった漢字を書くのか考えているようだ。一方の笹島は何かを思い出そうとするかのように頭を捻っていた。髭を揉むのはいつもの癖だ。 「比久羅間村かー。何か知ってる名前だなあ」 「へえ、私、こっちに来て比久羅間村の名前を知っている方に初めて会いましたよ」 「でも、何だったか思い出せないなあ」  そう言って、笹島は申し訳なさそうに笑った。 「きっと、神楽坂さんは君の村の期待の星だろうね。何たって東央大学のリケジョなんだから」
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