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取り敢えず一旦落ち着こうを合言葉に、皆、お茶室のテーブルを囲んでいる。
「改めまして、俺の名前は碓氷圭太(うすいけいた)。愛里と同じ比久羅間村の出身で、まあ、言ってみれば幼馴染みだな」
「噂をすれば影というのはこのことでしょうか……それとも君の不幸の影響ですか、福豊くん」
恨みがましく颯太を睨む愛里。慌てて颯太は頭を横に振った。
「何だよ……。ここまで来るのがどれほど大変だったか。金沢駅に行くまでに1日、そこから朝一の新幹線で東京まで。東京は2回目だけどやっぱすげえよな、別世界だ。まったく、学校の住所だけでここまで来るのは大変だった……。でもさすが日本一の大学。誰に聞いても場所を知ってるな」
「そりゃそうです」
「ところで、こんなところで毎日生活してると息が詰まりそうじゃね?」
「空気の組成は日本中どこでも窒素8割、酸素2割で一定ですからそんなことは有り得ません」
「つかさ、何で敬語なん?」
「敬っているのではなく、他人行儀なだけです。圭太こそ方言じゃなくて標準語ですね」
「田舎臭いと思われたら嫌なんだろ。で、ここで何してんの? 実験ってやつ?」
「それはこっちのセリフです! あなたはいったい何をしにここに来たんですか?!」
噛み合っているようでまったく噛み合っていない会話に終止符を打ったのは愛里だった。
「何って……愛里に会いに来たんだよ」
「意味が分かりません。私なんかに会いにわざわざ東京に?」
「そうだよ。みんな愛里のことを心配してる。苦労しているんじゃないか、ってさ。本来ならもう比久羅間に戻ってきているはずだったんだろ。なのに一向に帰ってこない。東京で悪い男にでも捕まってるんじゃないかって様子見にきたんだよ」
じろりと颯太の方を向く圭太。笑顔だが、その眼光が強すぎて颯太は思わずたじろぐ。それを見てなぜか安心したのか圭太の目の輝きが穏やかになる。颯太はバカにされたようで面白くない。
「理系は大学4年間だけでは真の理系にはなれないんです。2年まで一般教養の授業。3年生で基礎実験を習って、ようやく4年生でひとりで研究できるようになるんです。大学4年間だけでは圧倒的に時間が足りないんです」
「そんな時間がかかるものよりも野菜なら半年もあればできるぜ」
「農業と農学を混同しないでください! ふたつは似て非なるものです」
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