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「いやだって農業やるために農学部入ったんじゃあ?」
「嘘も方便です。嘘をついたのは私の未来を守るための自衛行為です」
「俺が守ってやるよ」
「恋愛ドラマの主人公ですか。私の恋人は研究で十分です」
ふい、と圭太から顔を背ける愛里。
「恋人は研究だけだって」
「聞こえてますよ。わざわざ言っていただかなくても結構です」
耳打ちしてくる笹島の顔を手で押しやる颯太。
「もう……帰ってください。私、研究したいんです……」
「つれないなあ。帰りたくてももう時間的に無理だし、今晩の宿もない」
「まさか、私の家に来る気ですか?! 女子の家に押しかけるなんてどれだけ非常識なんですか」
「そのまま追い返す方が非常識だと思うけど」
「比久羅間ではそうでも、東京ではそれが普通なんです。そうですね、文明の利器、スマホを使って今から手頃なビジネスホテルを私が探してあげます」
「おいおい……」
「ああ、カプセルホテルなんてどうですか。東京に来た記念になりますよ」
愛里はずれた眼鏡を直して立ち上がる。どうやら圭太を追い返す気満々のようだ。そんな愛里を笹島が苦笑しながら宥める。
「まあまあ、神楽坂さん。遠いところからわざわざ来てくれたのは確かなんだ。そう邪険にしないで研究室でも案内してあげなさいよ。なかなか一般人では見ることの機械が揃ってるよ」
「本当ですか?! 実は少しだけ気になってたんだ。ありがとうございます」
圭太はニコニコと笑いながら笹島に頭を下げる。
「えええ……」
「ほら、福豊くんも。案内手伝ってあげなさい」
「俺もですか」
「その方が安心でしょ、色々と」
「はあ」
笹島の助け舟に感謝すべきかそうでないのか。ふたりは渋々と頷いたのだった。
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